フェンシングは「剣の競技」と思われがちですが、実際のところ8割は足で決まる競技です。熟練者の試合を観れば、上下動が少なく、前後の移動がなめらかで、間合いが絶妙に変化することに気づくはずです。これはすべてフットワークの積み重ねです。
この記事では、初心者が最初の3ヶ月で身につけるべき5つの基本フットワークを、ヘッドコーチ川村京太(第75回全日本フェンシング選手権大会・男子フルーレ個人優勝)の視点で解説します。各動作の手順・コツ・よくある失敗・練習方法までを、体験レッスン後の自主練にそのまま使える形でまとめています。
フットワーク習得の重要性
なぜ「足」から学ぶのか
- 上半身より先に、下半身が正確なフェンサーを作る
- 剣技は足がしっかりしていてこそ効果を発揮する
- 怪我のリスクを大きく下げる(膝・足首)
- 間合い(リーチ)を自在にコントロールできる
剣より先に足を仕上げる理由
世界のトップ選手は、レッスン時間の40-60%をフットワークに充てています。一方、日本の初心者は剣の動きばかりに気を取られがちです。剣は手先の動き、フットワークは体全体の動き。土台がなければ、どれだけ剣が速くても試合で勝てません。
フットワークが弱いと起こる問題
- ファント(突き)の距離が届かない
- 相手に間合いを詰められて反応できない
- 攻撃後の戻りが遅くリポストを食らう
- 試合後半に足が疲れて動けなくなる
基本姿勢:オン・ガルド(On Guard)
すべてのフットワークはこの構えから始まります。オン・ガルドが崩れていると、その後のすべての動作が狂います。
手順
- 前足を前、後ろ足を後ろ、両足90度で開く
- 両膝を軽く曲げる(深すぎず浅すぎず)
- 重心は前後の真ん中
- 剣を持つ手を前、反対の手は後方に上げる
- 上半身は相手に対してやや横向き
チェックポイント
- 前足のつま先が相手を向いているか
- 後ろ足のつま先は外向き90度
- 両肩がリラックスしているか
- お腹がへこんで体幹が入っているか
- 後ろの手は力を抜いて自然な形
よくある失敗: 膝が伸びている / 前傾しすぎる / 後ろ足が引きずる / 肩が上がって力む
初心者がまず3分続けて保持する
オン・ガルド姿勢を鏡の前で3分キープすることから始めましょう。3分続けて形が崩れないようになれば、筋持久力と姿勢感覚の土台ができています。
1. マルシェ(Marche)- 前進
前足から一歩踏み出し、後ろ足をすぐに追いつかせる基本前進動作。
手順
- 前足をかかとから静かに地面に接地
- 前足着地とほぼ同時に後ろ足を動かし始める
- 後ろ足が元の相対位置に戻る
- オン・ガルドに復帰
コツ
- 前足のかかとから地面に接地
- 後ろ足を引きずらない(引きずるとバランスを失う)
- 歩幅は「少し大きめ」を意識
- 音を立てない(静かなマルシェが美しい)
よくある失敗
- 上下動が出る(膝のクッションで抑える)
- 前足着地と同時に後ろ足が動き出さない(リズム感が重要)
- 歩幅が小さすぎる → 間合いを詰められない
- 歩幅が大きすぎる → バランスを失う
練習方法
- 3mマルシェ × 10往復を毎日
- 時計を見ずに、リズムを体に入れる
- 鏡の前で動画撮影し、上下動を目視確認
2. ロンペ(Rompre)- 後退
後ろ足から一歩下がり、前足を追従させる後退動作。マルシェの逆。
手順
- 後ろ足のつま先から静かに後退
- 後ろ足着地とほぼ同時に前足を後ろへ動かす
- 前足が元の相対位置に戻る
- オン・ガルドに復帰
コツ
- 後ろ足のつま先から着地
- 前足を素早く追いつかせ、構えを崩さない
- 後退でも絶対に前方視線を外さない
よくある失敗
- 上半身が先に倒れる(下半身主導で動く)
- 足の距離が短くなる → 相手との間合いが詰まる
- 後ろ足着地時に音が大きい(ソフトな着地を)
- 顔が下を向く(相手の動きが読めなくなる)
練習方法
- 3mロンペ × 10往復
- マルシェとロンペの交互連続を1分間
- 反応訓練: パートナーが前進してきたら同じ速度でロンペ
3. ファント(Fente)- ランジ(突き)
前足を大きく踏み出し、体を低く沈めて剣を相手に突き込む攻撃動作。フェンシングの最も基本的で最も重要な攻撃。
手順
- 剣を持つ手を先に前方へ伸ばす(「剣先が一歩先」のイメージ)
- 前足を大きく前に踏み出す(つま先からかかとへ)
- 同時に後ろ足を伸ばして体を押し出す
- 目標に剣先が触れた瞬間、後ろ足で地面を蹴り戻す(レトゥール)
コツ
- 上半身は相手に対して垂直を保つ(前傾は最低限)
- 体全体を剣の延長線に乗せる
- 戻り(レトゥール)を攻撃と同じ速さで行う
- 前足着地と剣先接触がほぼ同時になるのが理想
よくある失敗
- 前傾が強すぎる(前のめりに崩れる)
- 戻りが遅い → 相手のリポストを食らう
- 剣より足が先に出る(正しくは剣が先)
- 後ろ足が曲がったまま(後ろ足は完全に伸ばす)
- 前足の踏み込みが浅い(ファントは「低く・深く」)
練習方法
- 1日ファント10回 + レトゥールを3セット
- 壁に目印を貼り、剣先をぴったり合わせる
- 動画撮影で体の一直線を確認
ファントの深さと距離
初心者のファント距離は約120-150cm、熟練者は180-200cm。股関節の柔軟性と後ろ足の蹴り出し力で差がつきます。
4. バロンド(Bond / Ballestra)- ジャンプ・ファント
ファントの前に、小さくジャンプして勢いをつける複合動作。距離を稼ぐ攻撃。
手順
- 両足でピスト上を軽くジャンプ(小さく)
- 着地と同時にファントへ繋げる
- 剣先から突っ込む
使う場面
- 相手との間合いが少し遠い時
- 相手の攻撃権奪取を狙うとき
- 相手を驚かせて防御を崩したい時
コツ
- ジャンプは高くしない(真上ではなく、前方へわずかに)
- 空中で重心を前に運ぶ
- 着地と同時にファントが出せるよう、着地でバランスを崩さない
よくある失敗
- ジャンプが高すぎて時間ロス
- 着地でバランスを崩す
- バロンドとファントの繋ぎがぎこちない
習得の順序
バロンドはファントが完璧になってから学ぶべき応用動作です。基礎が曖昧なうちに始めると、フォームが崩れます。
5. リューニオン(Réunion)- 構え戻し
ファント後、前足を後ろ足に引き戻して再び構え(オン・ガルド)に戻る動作。
コツ
- 攻撃が決まった・外した両方で即座に実行
- リューニオン中は相手から目を離さない
- 動きの流れの中で自然に戻る
よくある失敗
- ファント後に止まってしまう(リポストを受ける)
- リューニオン中に姿勢が崩れる
- 前足だけ戻して後ろ足が動かない
練習方法
- ファント → 即座にリューニオン、を連続10回
- 慣れたら「ファント → リューニオン → マルシェ」と動きを繋げる
年齢別フットワーク習得ガイド
5〜8歳(未就学〜小学校低学年)
- オン・ガルドと基本マルシェ・ロンペに集中
- ファントは正しいフォームの型のみ、深さは追求しない
- バロンドは10歳以降からでよい
9〜12歳(小学校高学年)
- 全5種目を一通り習得
- ファントの深さと速さを磨く
- バロンドを基本レパートリーに追加
中学生以上・大人
- 1-2ヶ月で5種目の基本を習得可能
- フォームの精度と反復スピードが鍵
- 3ヶ月で試合使用可能レベルに到達
フットワーク上達のための家トレ
リッツの生徒さんにもお伝えしている、自宅でできる簡単トレーニング:
- 鏡の前でオン・ガルド姿勢 3分キープ × 毎日
- マルシェ 5m × 5往復 + ロンペ 5m × 5往復
- ファント → リューニオン × 10回
- 膝上げ(もも上げ) 30秒 × 3セット(下半身強化)
1日15分を継続することで、週1回のレッスンと合わせて驚くほど早く上達します。
週間メニュー例
| 曜日 | メニュー | 時間 |
|---|---|---|
| 月 | オン・ガルド + マルシェ・ロンペ | 15分 |
| 火 | 体幹・股関節ストレッチ | 10分 |
| 水 | ファント + リューニオン反復 | 15分 |
| 木 | 完全休養 | 0分 |
| 金 | 全種目総復習 | 20分 |
| 土 | レッスン日 | レッスン時間 |
| 日 | 動画分析 + イメトレ | 10分 |
上達の目安
- 1ヶ月目: オン・ガルド姿勢が自然にできる
- 3ヶ月目: マルシェ・ロンペ・ファントがスムーズに連結できる
- 6ヶ月目: フットワークで相手との間合いを自在に制御できる
- 1年目: 対人試合でフットワークによる主導権が取れる
- 2年目: 相手のフットワークを読み、先読みができる
- 3年目以降: フットワーク自体が戦術の一部として機能
よくある質問
Q1: フットワーク練習は筋トレも必要?
A: 下半身(太もも・ふくらはぎ)と体幹の筋トレは補助的に有効です。ただし、フェンシング特有の動きはフェンシング動作そのもので鍛えるのがベスト。ジムトレーニングは週1-2回で十分。
Q2: 子供でも難しい動作はありますか?
A: ファントのレトゥール(戻り)が最も難しく、6歳以下の子供は完全な形になるまで時間がかかります。焦らず、正しいフォームを優先してください。
Q3: フットワークだけで週1レッスンは足りる?
A: レッスン内での時間は限られるため、家での自主練との組み合わせが必須です。毎日15分を3ヶ月続けると、レッスンのみの選手と明らかな差がつきます。
Q4: 左利きのフットワークは違いますか?
A: 左右が逆になるだけで、基本原則は同じです。ただし、右利きの相手と対戦する場面が多いため、左利き選手は有利と一般的に言われます。
リッツでフットワークから学ぶ
リッツフェンシングアカデミーでは、週1回のレッスンのうち最初の20分を必ずフットワークに充てています。基礎が崩れたまま技術を積んでも崩壊するため、5歳のジュニアから大人初心者まで、全員がこの基礎練習を大切にしています。
無料体験レッスンでも、フットワークの第一歩を体験できます。

